コラム

パーソナライズされた応対を望む顧客は重荷か?

【カスタマーサービス アドバイス&インサイト】第4回 :パーソナライズされた応対を望む顧客は重荷か?

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※本記事は2023年3月29日に米国J.D. パワーにて発行されたコラム(" Your Customers Expect Personalization. Is This Holding You Back?" By Scott Killingsworth)を翻訳したものです。

 

ある一つの指標が、顧客の知覚品質(コールセンターを利用した際にどのように感じたか)に大きな影響を与えることがある。実にこの指標は、コールセンターの利用体験全体に対する知覚品質のほぼ3分の1を占めることがある。
 
この指標とは、トークスクリプトの使用である。
 
J.D. パワーが実施するカスタマーサポートに関するベンチマーク調査に、「オペレーターが、あなたやあなたの質問に対し、自分の言葉でなく、スクリプトを使って対応していたと感じたか?」という質問がある。
回答者がこの質問に「はい」と答えた場合、コールセンターの利用体験に対する満足度は1,000ポイント満点中、287ポイント急落する。この低下は、トップ・パフォーマー企業であっても起こり得る。
 
コールセンターの利用体験に対してスクリプト使用の影響が大きい理由とは?
 
トークスクリプトの影響を理解するために、まず把握すべきポイントは以下2点である。
 
1.  スクリプト使用に対する顧客の一般的な感じ方
 
2.  話を聞いていない、あるいは、本心からではない応答や、自然な会話の流れから生じていない不自然な応答だとする顧客の感じ方
 
まず、一般的にスクリプト使用とはなにかを考えてみよう。コールセンターでのトークスクリプトは、最善の意図を持って開発されたものであるはずだ。
スクリプトは、標準化したアプローチをオペレーターに提供し、頻繁に発生するシナリオに対して、多様な大勢のオペレーターに一貫性を持たせることができる。
 
また、トークスクリプトは、様々なコールリーズンに対応して慎重に作成されることもある。問い合わせ内容によっては、規制遵守やデータセキュリティ/個人情報に関する免責事項、契約条項・条件の口頭承認など、実際に厳格なスクリプトの使用が必要な場合がある。
 
トークスクリプトを使用していると顧客に認識されることによる悪影響を軽減する方法の1つとして、顧客にスクリプトを読み上げる必要があることを率直に伝えるという方法がある。さらには、スクリプトを読み上げることが顧客にとってもメリットがあることを説明できれば理想的である
 
スクリプトを使用すると、顧客の期待との間に自然なギャップが生じる。前回コラム(第1回:「コンタクトセンターの顧客満足に最も大きいウェイトを占めるドライバーをいかに改善するか」)で言及したように、顧客は自身の質問に対する回答を得ることと問題が解決されるという一貫性を求めているが、同時に、自身の質問や問題・課題に合わせてパーソナライズ化された対応も望んでいる
 
カスタマーサポートを提供するにあたり、対応に一貫性を持たせることは重要であるが、やみくもな画一化は避ける必要がある。定められたプロセスやコールフローに準ずることもできるし、従うべきでもあるが、それだけではなく、次のことも必要である。
 
  • オペレーターと顧客の双方の個性やスタイルに合った、本心からの顧客対応を提供するための柔軟性
 
  • 状況や問題内容に応じて、オペレーターが独自に対応できる自由さ
 
以上、トークスクリプト全般について議論してきたが、次に、話を聞いていない、本心からではない、または、自然な会話の流れから生じていない不自然な応答であると、顧客に感じられてしまう課題について掘り下げてみる。
 
厳格なトークスクリプトに依存すると、丁寧さや配慮・気遣いが欠けているという認識を与えることがある。顧客は、オペレーターに人間味を感じられなかったり、対話が強制されていると感じたりするかもしれない。これは、信頼関係の欠如につながり、さらには、顧客の最善の利益のために行動し、満足のいく解決策を提供しようとしているオペレーターに対する信頼が失われる可能性すらある。
 
また、トークスクリプトを使用することで、顧客が既に伝えた情報を繰り返す必要が生じることもある。これは、オペレーターがスクリプトを使用していることを示す特徴の1つとなることが多い。多くの人が、コールセンターに電話をかけ、温かく迎えられ、名前を聞かれ、自身の用件を述べた後、電話の冒頭で既に述べたことを、再びすべて繰り返すよう求められたことがあるだろう。その背景には、オペレーターの聞き取りやメモの取り方に問題があったのか?あるいは、オペレーターがスクリプトを使うことを強制されていたからなのか?そうなってしまった理由はともかく、「話を聞いてもらえていない」という顧客の認識は変わらない。
 
トークスクリプトによる悪影響を減らすことはできるのか?
 
1.  柔軟性のあるスクリプトの提供:
新人オペレーターには、重要なトークポイント、サンプルとなるフレーズや用語を提供する。こうすることで、すぐに軌道に乗り、自身の電話応対スキルに自信を持つことができる。オペレーターが経験を積むにつれ、特に頻繁に見られるコールパターンでは、一般的なガイドラインの範囲内で、自身のスタイルや個性に合った言い回しを使うように促す。これらのガイドラインは、きちんとした品質が保証されたものであるべきで、加えてカスタマイズされた柔軟な応対アプローチは積極的に強化するようコーチングされるべきである。より困難な電話や珍しい問い合わせについては、問題や課題を理解し、解決するために必要な一般的なフレーズでスクリプトを提供するが、顧客に合わせて応対をパーソナライズ化できる柔軟性を許容する。
 
2.  「繰り返し」の回避または必要性説明:
傾聴とメモを取ることは、顧客が既に伝えた情報の繰り返しを求めることを避けるために重要である。既に伝えた情報の繰り返しは、オペレーターがトークスクリプトを使用しており、自分の話を聞いていないという印象を与える二重の悪影響を及ぼす。もし、顧客に情報を繰り返してもらう必要がある場合は、オペレーターはその理由を顧客に理解してもらうようにすべきである。顧客からすれば一度伝えた内容を再度伝えねばならないという点では同じことではあるが、再び顧客にそれを繰り返してもらう必要性を理解してもらうことで、オペレーターが話を聞いていなかったという印象を与えることをいくらか防ぐことができる。
 
3.  シンプルに:
第一印象を決めるチャンスは一度きりしかない。そのうえコールセンターの世界においては、最終的な印象を決めるチャンスも一度きりである。最初の挨拶は、シンプルで直接的なものにし、長い挨拶は避けるべきである。長ければ長いほど、スクリプト通りだと思われる。同じことがコールの終わらせ方にも当てはまる。当社の調査によると、コールの終わりに、他の問題の解決に協力できないかを確認し、顧客に純粋に感謝する内容を、スクリプトではないシンプルな方法で述べることが満足度の大幅な向上に繋がる
 
以上、これらの施策は簡単に見えるかもしれないが、人の行動やパフォーマンスを管理することは、簡単ではない。オペレーターの行動やスキルは、トレーニングや品質管理、コーチング、表彰、インセンティブなどを通じ、一貫性のある強固な連携の中で教育され、強化されていく必要がある。
カスタマーサービス体験全体の3分の1がトークスクリプト使用によって影響を受けていることを考慮すると、この問題に多くのコールセンター担当者が着目し、取り組んでいくことを推奨したい。
 

 

バックナンバー:【カスタマーサービス アドバイス&インサイト】

第1回:「コンタクトセンターの顧客満足に最も大きいウェイトを占めるドライバーをいかに改善するか」こちら

第2回:「カスタマーサポートにおけるデジタルチャネル利用定着のポイント」こちら

第3回 : ソフトウェアサポートにおける顧客満足度の新たなけん引役こちら

 

 

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